~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 06.月影のナポリ / ~ 記憶の中のカンツォーネ ~ 第6回


06.月影のナポリ / ~ 記憶の中のカンツォーネ ~ 第6回
《L'amante della musica》

今回は、新コラム第3回に続いて、2度目の替え歌カンツォーネCMの紹介です。 なにはともあれ、まず動画を見てみてください。


商品名が連呼されていることから分かるように、 これはトヨタの自動車〈シエンタ〉のCM。 放送されていたのは2003年頃だそうです。 歌詞はイタリア語っぽい感じがなきにしもあらずですが、 まあ、どうしたって日本語に聞こえますね。

でも歌っているのは日本人ではなく、 Mondo Candidoというイタリアのポップ・グループです (もしかすると、このグループ名は、昔懐かしい映画 『ヤコペッティの大残酷』[原題Mondo Candido]からとったのかもしれません)。 このグループのことは知らなかったのですが、 このシエンタCM曲を含むミニアルバムが日本出ていて、 そのライナーノートによれば、 フィレンツェを拠点に活動している3人のユニットだそうです。

■CD: モンド・カンディド『月影のナポリ』(2003年)

『月影のナポリ』


このCM曲には元ネタがありまして、年配の方々ならばご存知ではないかと思います。


この歌は『月影のナポリ』(tintarella di luna, 1959)。 日本に入ってきた代表的なカンツォーネのひとつです。 60年代のカンツォーネブームは、この歌から始まったと言われています。 歌っているのはカンツォーネの女王ミーナ。今でも活動しています。 「月影のナポリ」というタイトルから、 しっとりとしたロマンチックなバラードを予想してしまうかもしれませんが、 お聴きのとおり、とても陽気で楽しい曲です。 日本でも日本語歌詞がつけられて、ザ・ピーナッツや森山加代子が歌い、大ヒットしました。

■ザ・ピーナッツ版


■森山加代子版


実は、この二つの日本語版は歌詞が同じではありません。 さらには原曲の歌詞の内容ともかなり違っています。 原詞の一部を紹介してみましょう。

Abbronzate, tutte chiazze,
pellirosse un pò paonazze,
son le ragazze che prendono il sol,
ma ce n'è una
che prende la luna.

すっかり日に焼けて
インディアンみたいに赤い肌
日光浴をする少女たち
でも月の光を浴びる娘なんて
いるのかしら

Tintarella di luna,
tintarella color latte
tutta notte sopra il tetto
sopra al tetto come i gatti
e se c'è la luna piena
tu diventi candida.

月光焼け
ミルク色の日焼け
一晩中屋根の上
猫みたいに屋根の上
満月だったら
肌は真っ白になるわ

日光浴ならぬ月光浴というなかなかユーモラスな歌詞。 日の光だったら赤くなるけれど、 月の光を浴びたら肌が白くなるというのは面白いでしょ。 ヴァカンスには日焼けするというのがひとつのステイタスになっているイタリアですが、 逆の発想をしているのはなかなかお見事です。

でも、なぜ邦題は「ナポリ」なんでしょうか? 原詩のどこにもナポリは登場しません。 別に「ローマ」でも「フィレンツェ」でもどこでもいいのでは? と思ってしまいます。 カンツォーネブームの火付け役となった『月影のナポリ』がヒットする以前から、 日本ではイタリア民謡がよく知られていました。 しかし、イタリア民謡といっても、大半がナポレターナです。 『帰れソレント』も『サンタ・ルチア』もそう。 歌の都ナポリは、日本人にとって非常に馴染み深い町でした。 「ナポリタン」なるスパゲッティ料理もあるくらいですからね。 想像するに、おそらくそうした流れから、この曲に邦題をつける際、 馴染みの深い「ナポリ」の語を冠したのではないでしょうか。

イタリア音楽コラム
~ 記憶の中のカンツォーネ ~ 第6回
2009-09-16