『禁句』(短編) ルイジ・リナルディ短編集より_『再試験』


『再試験』



 結果を待つ間、トニーは何ものも恐れない。採点には数分を要し、それは心理学者たちがグリッドと照合して行われる。
 誰かは失神し、誰かは泣き、誰かは漏らしている。点呼が始まる。苗字のアルファベット順に、一人ずつ生存者が呼ばれ、評決が下される。
 彼は、悲鳴が耳に入らない。兵士に力ずくで連れていかれる者、うれし泣きをする者、絶望して泣きわめく者、窓から逃げようとする者、彼は、彼等に気づかない。
 彼は、そこにいない。三十五分前に停止したままだ。彼女のまなざし、彼女の微笑み、同じ場面シーンを繰り返し何度も再生する。
 彼女、とても上手に話す弟のいる、いっさい物を言わなかった彼女。
「アントニオ・ロッセッティ」
 太っちょの声が彼の名を言った。
 トニーには聞こえない。
「二十点満点で十一点。合格」
「間違ってる」彼がつぶやく。
「間違ってる」立ち上がりながら繰り返す。
「間違ってる!」絶叫する。
 軍人は、しかめっ面をして、点呼を続行する。
「マリオ・サルサ。二十点満点で十二点。合格」
 最前列に座っている眼鏡をかけた少年が、あえぎながら周りを見回す。
 今自分が耳にしたことを信じていない。
「本当?」と尋ねる。「じゃ、生きられんの?」
「間違ってる!」トニーは叫び続ける。「彼女と一緒に行きたい。彼女と一緒に行きたい!」
 例の二人の兵士が入ってくる。彼を両側から挟み、がっしり掴んで、有無を言わさず連行する。
 トニーは叫び、蹴とばし、抵抗しようとする。
「僕のテストを破れ! 僕はサラと一緒に行きたいんだ!」
 トニーが教室の外に放り出される直前、痩せぎすが、落ち着きはらって彼に言葉を返す。
「半年後には、望みどおりだろう」

(続く)

訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)