『禁句』(短編) ルイジ・リナルディ短編集より_『禁句』


『再試験』



 トニーは目が覚める。
 夜光塗料が塗られた時計の針を見る。六時。起きなければいけない時間は六時半だ。
 異父妹のハインが、二段ベッドの上で、やわらかくいびきをかいている。
 部屋のドアの向こうから、母親が、もうキッチンの流しに立って、何かをすすいでいるのが聞こえる。
 壁の向こうでは、母親のパートナーが、ベッドサイドテーブルの置き場所を変えている。
 トニーは起きたくない。布団の中は、温かくて、天国だ。
 眠りに戻ろうとする。まだ、あと三十分寝られる。大分ある。けれど、自分を待ち受けている今日のことを、つい考えてしまう。
 もう三十分ない。二十五分だ。
母親は、彼とパートナーのために朝食をつくっている。土曜日も働くパートナー。ベッドサイドテーブルを動かすパートナー。あのパートナーは、父親としての役割に精を出す、父親の替えだ。なぜなら、しっかりとした核家族は、資源の浪費が少ないということで、課税政策で得になるような権利があるからだ。高校の家計学の時間に、そう、おそわった。
 妹のハインは相変わらず、いびきをかいている。起きる時間が迫っている。

(続く)

訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)