わたしは昔を振り返りながら、仲間と一緒に〝西の展望台〟で野営をしていた。あいにく、その日は閉まっていたが、そこにはプレキシガラスでできたバルコニーがあって大西洋が見わたせる。下を見ると、空を飛んでいるような気分になり、思わず何かにしがみつきたくなる。 明るい窓のすぐそばにある、人間工学に基づいて設計されたデッキチェアを見つけて腰を下ろし、太陽が自ら落ちていく壮観な地平線を眺める。 それからシスがわたしたちに加わり、いつものように咳払いをして宣言をする。シスはおかしな歩き方をして、年老いた道化師のような陽気な雰囲気を醸し出す。かつての社会主義者の英雄たちの肖像画の下を囲むように並べられたテーブルを見わたし、そこにいる人たちと握手をしたり、口先だけの約束を交わしたりする。タバコや小銭をねだられたときは、ぞんざいに扱った。 だれもがシスを信じ、だれもが彼に身を捧げ、競うように挨拶をする。 それは彼の才能だった。よい政治家になれただろう。しかし、人生とはそういうものだ。 シスは太守パシャのようにズボンをたくし上げて、黒い靴下を見せながら、わたしの隣に座った。安楽死センターでもそれを穿いていくのだろう。 わたしの耳は昔と違って衰えているので、夕陽と夕陽が反射して金色と銀色に輝く海面に心を奪われていたとき、シスがいつものように皮肉っぽく冷淡な調子で何か言ったのを、聞き取れなかった。それはニュースであったのだが。 わたしは、驚きのあまり悪態をつき、二度ほど息をのんでから、振り返る。そこで目にしたことを順番に言うと、まずは、〝南の腕〟から来た終身雇用の老人ふたりの驚いた顔、そしてそれまでソリティアに夢中だったソレンセンが一枚のカードを手に持ったまま、目を細めた顔だった。 「アルファ警告だって? だれが言ったんだ?」と尋ねた。 つまり、そういうことだ。 シスは微笑む。不思議なことではない。 良い知らせにも悪い知らせにも、シスはいつも微笑む。 そして、これは悪い知らせであるような感じがした。 シスはわざと無視して、毎日支給されるわたしたちの分のラム酒を、喜んで受け取り、――もちろん、返す気はないだろうが、――その知らせの内容を明かした。 「称賛すべきジャクソン同志。やつは半分酔っ払ってて、がまんできなかった屁でもこくように口を滑らせたんだ」 わたしはがまんできなかった屁というものを想像してみると、音まで聞えてくるような気がした。その間に話は盛り上がり、広い半円形のホールで、まるでパンくずを奪い合うハトのように、近くのテーブルから老人たちが次々と集まってきて、グルのように振る舞うシスのまわりに群がった。シスは、同意するような眼差しを向けてから、自身の考察、逸話、助言を惜しげもなく披露する。 だが、その話にわたしがどれほど興味を持ったかといえば、十段階評価でゼロだ。 だからわたしはそこから顔を背け、夕陽に視線を戻した。トロピカルストームがやってくる寸前の夕焼けだった。 そこにはメタファーがあり、わたしはいつもメタファーを見つけることに喜びを感じている。 夜遅くなって、島民たちがしっかりと施設の戸締めを終えたころには、すでに雨が降りはじめていた。
Rinaldi Cremisi (続く)
訳:高野 由美(たかの ゆみ / Yumi Takano)